あらすじ【起】
元日人がすいた東京都内を走るタクシー。一人の若い女性を乗せていた。
彼女は榛原華子。東京生まれ、東京育ち。開業医の三女で年の離れた姉が二人いるお嬢様。
毎年元日は家族と会食と決まっていた。しかし、今年は遅刻してしまう。
というのも、同伴予定の婚約者と別れたばかりだったからだ。
仕事をやめてしまって彼の気持ちが重たくなったのかもしれない――と思う華子。
周りの親族はこぞって華子に結婚を迫る。
華子の友人たちも次々に結婚しており、ついに華子は婚活を始めることにした。
しかし、なかなか良い縁とは巡り合えずにいた。
あらすじ【承】
ある雨の日、セッティングされたお見合いで、弁護士の青木幸一郎と出会う。
すらっとした好青年で、育ちも良いのか物腰は柔らかい。
華子は青木の内面は良く知らないままに結婚を決めた。
華子の友人であるバイオリニストの相良逸子はとあるパーティーで時岡美紀に声を掛けられる。そこには、青木幸一郎もいた。
相良の目に、美希と青木幸一郎とはとても親密な関係に見えた。
あらすじ【転】
時岡美紀は地方出身。慶応義塾大学入学と同時に東京に出てきた。
同郷の平田里英も同じ大学の合格者だ。
しかし、憧れの大学で感じたのは「内部生」と自分との格差。
美紀は家庭の事情もあり、途中で中退を余儀なくされる。
ある日、美紀の勤め先に現れたのが青木幸一郎だった。
大学時代にノートを貸してそれっきり幸一郎が返してくれなかった過去がある。
美紀と幸一郎は、徐々に親密な関係となり、それは幸一郎が婚約した後も変わらなかった。
相良は美紀と華子を呼び出した。
相良は二人を対立させたいわけではないという。
美紀は慣れない高級なラウンジでうっかり食器を落とす。
自分で拾おうとする美紀と、食器を拾うよう店の人に頼む華子。
二人の育ちの差がくっきりと浮き出た瞬間だった。
美紀は幸一郎との関係をきっぱり切るといい、実際にそうした。
華子と幸一郎とは無事結婚する。
しかし、お互いの心を打ち明けることのない二人は徐々にすれ違っていく。
あらすじ【結】
一方、美紀は友人と共に起業を決めていた。
ある日、義母に不妊治療に連れていかれた華子は、その帰り道颯爽と自転車を走らせる美紀を見つけて思わずタクシーを降りる。
美紀の家へと行き、今までの自分とはかけ離れた生活を見て「東京にずっと住んでたけどこんな景色を見たのは初めて」と、呟くのだった。
美紀はそんな華子を見て「何があったかわかんないけど、その日、何があったか話せる人がいるだけで、とりあえずは十分じゃない?」という。
華子はついに離婚を決意。
離婚した後、華子は相良のマネージャー業をしていた。以前よりずっと表情が軽やかになっている。
その演奏会の会場で偶然幸一郎と再会する。
「この演奏が終わったら二人で話をしよう」幸一郎はそう華子に声をかけたのだった。
「あのこは貴族」感想
衝撃を受けたシーンの一つは相良が華子にいう「政治家の子供は名前に一郎とか太郎ってつけるの。誰でも(投票用紙に)名前が書けるように」っていうところ。
頭の中に何人もの二世議員の名前が浮かんでいきました。なるほど。考えたこともありませんでした。
そして、もう一つ忘れられないシーンは婚活のストレスマックスの時期に華子がジャムの瓶に指を突っ込んでそのままジャムを食べていたところ。
平民の私でもやらない(というかそんなこと今の今まで思いつかなかった)ので、たぶん、絶対にお嬢様はそんなことしないと思うんだけどな――。
不衛生極まりない気がしてぞっとしました。
一方、素敵だったなと思うシーンは、冒頭はタクシーに乗っていたお嬢様が、徐々に自分の足で歩き出し、自転車に乗っている人に手を振り、友達と一緒に三輪車で遊ぶ――という、「乗り物の変化」です。ここに、華子の心情や立場が表されていて素敵でした。
また、「華子と美紀の対比」をあらわすため、華子の立ち振る舞いが本当にエレガントで素敵でした。もちろん、衣装や持ち物もとても美しかったです。
さて、映画本編の感想はここからです。
現代の日本に実際に存在する「異なる階層」で暮らす女性同士の話。
となると、「陰険な足の引っ張り合い」や「派手な喧嘩」を想像しがち。
タイトルだけ見ても「あのこってお高く留まっていて貴族気取りだよねー!」という悪口風にとらえることもできます。
さらに「婚約者(東京で暮らすお嬢様)」と「学生時代からの半ば愛人(田舎出身の上京者)」との関係に焦点があたるので、どろどろの映画なのかな……とちょっと不安に思いながら見ていましたが、そんなことはありませんでした。
話の途中でバイオリニストの相良が明言したように、「立場が違う女同士で足を引っ張り合って競わせるなんて嫌い」というのが制作者の想いなのかなーー。
立場が違えど、根底に抱える悩みや困難は似通うところもある。
この日本においてまだまだ立場の弱い女性で生きるのはなかなか大変なこともあるけど、「あがいたり、もがいたり、自分の足で歩いたりして――あなたの居場所を探していいんだよ。」
そんな温かいエールが込められた素敵な映画でした。
ちょっと疲れたときに、とびっきり美味しいお菓子や、ちょっと良いワインなんかと一緒にぼーっと眺めたい作品です。
他の方の感想はこちらです。
「あのこは貴族」原作小説
「あのこは貴族」の原作小説は、山内マリコさん。
原作と映画、両方を見比べてみるのもいいですよね。
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